一般的な組織開発の教科書は、組織開発理解の視点の違い反映して、いくつかの部分から構成されています。
手元にある版を重ねた組織開発の教科書によれば、以下の4点から、構成される場合が多いようです。

1.関連領域の基礎リサーチから見た知識体系としての組織開発
2.クライアントに働きかける実践家の存在意義や役割としての組織開発
3.実践家が蓄積した実践技法の体系としての組織開発
4.組織開発の価値観や思想

まず組織開発は、社会心理学や組織行動や行動科学的アプローチを応用したリサーチ領域の成果が、実践家の対象に応用されるので、学術的知識体系の側面を持つことです。
具体的には、実践家はクライアントの変革努力を理解する時や、実際に変革に関わってゆく時に、直観や体験だけではなく、科学的なリサーチの裏付けを持つ知識を応用する側面があると言うことです。
また組織開発は、幅広く個人からコミュニティや社会の変革を対象とするため、とても多様な、いわば「学際的」領域を基礎リサーチ領域として含むので、常に実践家は、知識学習の研鑽を惜しんではならない領域です。

しかし、良く問題が見えないけれど、より良くなりたい人や組織が目の前にして、実践家の責任は重要です。 つまり実践家の関わりは、目の前の対象に影響を及ぼしますが、間接的に周囲の人や組織にも波及するのですから、直接・間接的な影響力を理解する基礎的な知識が重要になります。

さて組織開発は、対象から離れて、いわば客観的な立場から対象を分析して、原因を論理的に解明して変革提案をする方法を、あまり得意としません。
むしろ組織開発の実践家は、同じ人間として本質的な問題探求のために対象組織に入り込んでゆきます。
クライアントが表面的に問題を理解する場合、その依頼を受けたコンサルタントが客観的に外部から分析すると、論理的で客観的な分析でも、本質的な問題と関わりの薄い変革提案となるでしょう。

むしろ組織開発は、変革の用具(エージェント)として実践家が、積極的に関わりを深める役割が重要視されます。
時には学術調査のように対象に分け入り、一体化して物事を理解するだけでなく、冷静な目で対象を観察・分析することが、対象の本質的な理解に近づくからです。
それ以上に重要なことは、人として実践家の多様な側面を、感情すら含めて可能な限り応用して、より本質的な問題に対象が気づくように関わる事です。
例えば組織の思考様式は無意識な習慣行動となる場合が多く、こうした場合、組織は無意識な物事には気づけないからです。

しかし良くなりたい人や組織を目の前にして、実践家の責任は重要です。
つまり実践家の深い共感と素直な気づきを返される事で、初めて人は自分の違う側面を知り、多くは驚きから問題の発端を知りうるからです。
測定技法やデータが変革を導くのではなく、いわば多様な対象を深く共感して理解できる、人としての成熟や成長が決め手となるので、常に実践家である限り成長努力を惜しむべきではないと考える点に組織開発の特徴があります。

ところで組織開発の実践技法は、すでにいろいろな形で日本を含めて世界中に応用されて成果を上げています。
一般的な組織開発の教科書が取り上げる実践技法は多数あり、古くはアクションリサーチ、チームビルディングやプロセスコンサルテーションなどがあります。
最近ではアプリシエイティブインクワイアリー、フューチャーサーチやラージグループインターベンション(対話中心の大規模な介入技法)などのように、ポジティブ心理学、ダイアログリサーチやアダルトラーニングリサーチの発展を応用した領域が華やかです。

しかし実践技法は、具体的な実践活動で蓄積した体験を実践家達が総合した論理体系なので、実験室で検証された基礎リサーチの理論体系とは違います。
それでも実践家であれば、実践活動から独自の実践技法開発が可能であり、しかも実験室で再現・検証された場合、組織開発の実践家が基礎リサーチの発展に貢献するので学術的にきわめて有意義です。
実際にエドシャインやマイケルビアのように、コンサルタントと大学リサーチャーをこなす、いわゆる「スカラー・プラクティショナー(実践家)」が、昔から組織開発では多数活躍しております。

しかし実践家の責任は、ここでも重要です。
クライアントの自立変革能力獲得が実践家の使命であり、リサーチャーとしての地位・名誉を求めるのではないからです。
また実践技法は実践活動の蓄積ですから、応用の普遍性は低いでしょう。
ですから著名な実践技法の華々しい実績でクライアントを集め、変革成果より利益獲得を優先するのも実践家の責任を果たしていないでしょう。
普遍的な正解はありませんが、人として成長・発展を求める実践家・リサーチャーであり、コンサルティングを通じた利益で活動基盤を確保するコンサルタントであるという矛盾する方向性をできるだけ高い次元で結びつけるロマンあふれる職業と言えるでしょう。

最後に組織開発の価値観です。
組織開発が、規範的で価値観を持つ論理体系であるという指摘は、良くも悪くも独特な組織開発の成立背景や存在意義を示しています。
しかし過去数回の調査だけでなく、2013年のコロンビア大学のウォーナーバークチームの調査結果を見ても、実践家は価値観の重要性を強く意識している点で、やはり特徴的であると言えるでしょう。
つまり組織開発は、外部から客観的・論理的な分析と提案をする変革コンサルティングとは違い、実践家がクライアント組織やシステムに人として深く関わりながら、本質的な問題を気づかせる活動をするので、普遍的な倫理・道徳と実践行動が求められます。

乱暴ですが、あえて分かりやすい表現をすると、クライアントが獲得する成長・発展能力は、実践家の人間的な成熟に影響を受けるので、実践家には知識・実践体験だけでなく、信念や理念に基づく実践行動が実行できなければなりません。
つまり人間行動や存在に限りない関心と成長期待を持ち続け、多様な意見や関わりを素直に受け入れるとらわれのなさ、クライアント組織やシステムの自立変革能力向上を尊び、クライアントの変革を通じて持続的な社会の成長・発展を望む、いわば理想的な人や組織や社会実現のために組織開発と実践家の存在意義があると前提します。

もちろん実践家もクライアントも変革に直面する人の弱みも表面化しがちですので、クライアントと共に変革への関わりを通じて、よりよい人・組織・社会の成長発展を実現する理想は、変革への関わりの支えとなるでしょう。

全体を総括すると、組織開発は、基礎リサーチ領域の知識と実践家としてクライアントに気づきを促す能力と体系的で具体的な実践技法の体得が、組織開発の価値観や思想に裏付けられた理想的な人や組織やコミュニティ実現を目指して、果てしない探求と実践の繰り返しから、組織開発の実践家が成長・発展するための論理体系が組織開発であると言えるのではないでしょうか。
この点で、特に組織開発の実践技法を学び、応用するだけでは、組織開発を理解したことにはならず、その基本的思想面の理解と実践を好ましく思い、日々の活動で継続して実践して、組織開発を理解したことになると言えるでしょう。

いかがでしょうか。私達と一緒に組織開発に取り組んでみませんか?